皺の刻まれたおじいちゃん

帰りの乗換駅赤羽での出来事。
埼京線のホームにHONDAのキャップを被った皺の刻まれた褐色のおじいちゃんが登ってきた。


この電車は戸田に行きますか?と私の隣にいたお姉さんに声を掛けると、そっけない返事が返って来ていた。
よく見ると大なバックを肩から斜め掛けにし、もうひとつアタッシュケースを持っている。
もう片方の手には、切符のような物を握り締めていた。
おじいちゃん、電車に乗っても目の前に座っているおばさんに聞いている。戸田に行きますか?と。相当心配なんだろう。
電車に乗ると私の隣にいて、同じパイプを掴んでいたのだが、その手には広島市内→戸田と書かれた切符と、どこに着いたら何番線に乗る、というような事が書かれてあった。
爪の先は黒く汚れ、畑をしているんだろうと思わせる分厚い手をしていた。


思わず戸田ですか?と私は聞いてしまった。
私にも心配そうにこの電車は戸田に行きますか?と聞く。
前の二人があまりにもそっけない返事をしていたからだろう。
ちょっぴり嬉しそうに広島から出てきたんですと話を続ける。遠いところ大変でしたね。私も戸田で降りるので、そこまで一緒に行きましょうと返事をすると、また、おじいちゃんは話し始めた。本当は祝い事か何かで来たかったのですが、妹が死んじゃたんですと言う。しかしそう言うおじいちゃんの顔は特別暗くはない。むしろ元気いっぱいだ。カラ元気なのだろうか。気が張っているんだろうか。


戸田の駅に二人で降り立ち、公衆電話と近隣の大きな地図が貼ってある場所を教えてあげた。
「色々ありがとうございました。声を掛けていただき心強かったです。後は駅員さんに聞きます」と、改札口で別れた。
おじいちゃんの言っていた住所を地図で見ると、戸田公園の方が近いことが判明。ここから歩くのは大変だな。タクシー乗り場を教えてあげようと、振り返った時には、さっきまで改札口で駅員さんと話していたおじいちゃんが消えていた。


どこへ行ったのだろう。
トイレかな。
また電車に乗って戻ってしまったのだろうか?


またあの荷物を抱えてうろうろしながらいろんな人に声を掛けているのかと思うと、
心配でその場をすぐ立ち去ることが出来なかった。